現在の高校ラグビー界を代表する名将のひとりである。「牽引者」と記してもいいかもしれない。

東海大学を卒業後の1984年、当時創立2年目の東海大学仰星高校に赴任。以来、持ち前の負けじ魂を推進力に次々と革新的なアイデアを生み出し、クラブを激戦区・大阪きっての強豪へと育て上げた。花園出場は1992年の初出場を皮切りに今年で14回目。その間に2度の優勝を遂げており(1999年度、2006年度)、本年も優勝の有力候補に挙げられる。世界のトライ王、大畑大介を筆頭に、卒業後にトップレベルで活躍する教え子は枚挙にいとまがない。

今年14回目の花園に臨む土井崇司総監督 Photo:直江光信

「元々、人の真似をするのが嫌いな性格」(本人談)とあって、土井監督の指導法は独特だ。その核心は、「逆転の発想」にある。

洗練されたラグビースタイルに憧れ毎年大勢入部してくる新入生の中には、全国大会出場経験のあるエリートもいれば、初心者もいる。当然スキルや体格には大きな差があるから、練習はレベル毎にチームを分けて――と考えるのが一般的だろう。しかし土井監督(現在は総監督)率いる東海大仰星は、初心者も最初から全国トップクラスの先輩たちと同じ場所で、同じ練習を行う。

「以前なら初心者が入部すると、ケガ人の先輩がタッチラインの外で体育服姿の子にパスを教えているというのが春の光景でした。でもいまは来たその日から、初心者でもいきなり同じ練習に入れる。どっちが伸びるかといえば、『思い切って行けっ!』とやらせたほうが、実は伸びるんです。パスの放り方も、ランニングコースもわからないまま練習に入って、周りから教えられながらやっていくうちに、だんだんボールに触れるようになる。そしたらおもしろくなってきて、もっとうまくなるように練習しようとなる。物事を最初から順番に教えると、逆に伸びないということを最近は感じています」

入学したばかりの新入部員や下級生に対してよくアドバイスするのは、「レベルの高い試合をたくさん見なさい」ということだ。地味なパス練習の様子を見ても退屈なだけだが、目の覚めるようなトライシーンを見れば初心者も興味がわく。そうやってすごいプレーをたくさん見ていくと自然に意識のレベルが上がり、自分からそこへ到達しようとする。また実際に試合で現れるプレーのイメージが頭の中にあれば、普段行う基本練習も、どんな場面で生きるのかを認識しながら取り組むことができる。ゲームのどこで使うかわからないまま闇雲に反復するのと比べ、どちらが効果的かは明白だ。

一方、高校生離れしたあの試合中のパフォーマンスからは想像しづらいのだが、東海大仰星の普段の練習は、大半の時間が基本練習に費やされる。ここにも、土井監督独自の思想が息づいている。

「練習は基本ばかりですが、生徒にしゃべっている内容はレベルが高い。子どもたちは10段階で8のレベルの話を聞きながら、レベル1の基本を練習する。すると、基本さえできるようになれば、8に到達するのはむしろ早いんです」

現在のような全国屈指のクラブを作り上げる過程では、様々な挫折も味わった。古豪ひしめく大阪では後発の学校のため、就任当初は部員を集めるのも大変だった。1992年に花園初出場でベスト8入りを果たした翌年、「これでたくさん来てくれる」と期待していたら、ふたを開けると例年よりかえって新入部員は減った。「中学校のラグビー部の先生たちが集まる会合で、ある方から言われました。『ちょっと強くなったからって偉そうにしたらアカン』と」。そうした経験を通じて磨き上げられた信念が、いま指導者としての地金になっている。

「趣味はラグビーと授業で生徒を教えること」と語る根っからの指導者だ。卓越した理論と追求心をあおぐために、多くの指導者、チームが全国から大阪府枚方市のグラウンドを頻繁に訪れる。通常の教務に加え部の指導や合同練習会、遠征に追われ、「この十何年間、ほとんど休みはない」という日々。それでも、情熱はまるで失われない。

以前、ある取材で聞いたひと言は、いまも強烈に記憶に刻まれている。

「(全国大会で)ベスト8に入るのはもちろんくじ運もあるけど、これだけ必死にやっていたら当然やろう、とも思う。そこから上、4に行くには、やっぱり工夫が必要ですが」

今年4月の全国選抜大会終了後、1999年度の優勝キャプテンにして長年コーチを務めてきた愛弟子の湯浅大智氏に監督を移譲し、自身は総監督という立場になった。厚い信頼を寄せる後継者と臨む、14回目の花園。きっとこの冬も、鮮やかかつ迫力ある攻守で、観戦者を魅了するラグビーを披露してくれるはずだ。

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直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。

お知らせ

第93回全国高等学校ラグビーフットボール大会まもなく開幕!
12月27日より聖地花園から全50試合完全生中継!

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