ロンドン五輪金メダリストの松本薫が2回戦でマーティ・マロイ(アメリカ)にまさかの敗戦。

右相四つのマロイに引き手で右袖を制されたまま左出足払を食い、伏せて回避。この際残った右腕を制されたことが致命傷となり、腕挫十字固を食って「参った」、僅か24秒での意外な敗戦となった。

そんな中、日本の宇高菜絵が見事金メダル獲得。膝の負傷の影響もあってか序盤戦は苦しい試合が続いたが準々決勝のサンナ・フェルハーヘン(オランダ)戦を僅か40秒の大外刈「一本」で制して勢いに乗ると、最大の勝負どころと目された準決勝のオトーヌ・パヴィア(フランス)戦は釣り手で奥襟を得たワンチャンスを的確に生かし、一瞬相手を引き寄せながらの右大外刈「有効」で勝ち抜け。世界選手権銀メダル3度のテルマ・モンテイロ(ポルトガル)との決勝はGS延長戦に入って一段ギアを上げて連続攻撃、放った支釣込足にモンテイロが思わず宇高の足を取りダイレクト反則負けで試合決着。2010年東京大会以来2度目の出場となる世界選手権で、見事初の金メダルを獲得した。

宇高勝利の要因は、膝の負傷というハンデを負ったにも関わらずその得意技である大外刈に拘り続けたことと言える。大外刈は、どう上手く掛けても一瞬相手との「刈り合い」になるというその成り立ち上、仕掛けることに人一倍勇気のいる技である。狙う足に相手の重心を集めさえすれば、相手の首を制しさえすれば、胸をしっかり合わせさえすれば、とダイナミクスの面からその勇気を補強する理屈は多々用意されているが、この技にもっとも必要なものが「勇気」であることには変わりはない。

そして2010年の前回大会、宇高はまさしくこの「勇気」の欠落により敗退を喫した。無名選手を相手に消極的な判定負けを喫し、ミックスゾーンで「勇気が足りなかった」と真っ青な顔で繰り返した宇高のメンタルは、初の世界選手権というプレッシャーと得意技がまさしく人一倍勇気の必要な大外刈であることのダブルパンチで完全にエンストを起こしていた。それでも宇高は大外刈一本槍の自分の柔道から降りなかった。大外刈という他に倍する「勇気」が必要な技を自身のトレードマークに据えることは取りも直さず宇高自身のメンタルを錬る行為でもあった。今大会準決勝では前述の通り最大の敵パヴィアと対戦。背が高い相四つで懐が深いという大外刈ファイターにとって最も嫌な相手、そして何より大外刈を返そうと虎視眈々と狙い続ける相手に果敢に仕掛け、そして一発投げつけたこの試合は「勇気」を錬り続けた宇高の4年間の集大成であった。

そして決勝のモンテイロ戦。この試合の後半宇高は実は大外刈をほとんど仕掛けていない。ひたすら、前進するのみであった。6月に靭帯損傷の重症を負った宇高の右膝はおそらく既に限界近く、思い切った一撃を放てる状態になかったのではないかと見る。

それでも、モンテイロは下がった。宇高の大外刈を怖れ、何より準決勝で宇高が見せた向こう見ずな度胸を怖れたからである。結果、最後の宇高の連続技にパニックを起こしたモンテイロは足取りの反則を犯し、世界一の栄冠は宇高の頭上に輝くことになった。

4年前の宇高の、大外刈ファイターであるがゆえのメンタルのエンスト。そして今年の、大外刈に拘るがゆえに獲得叶った勇気と結果。宇高は大外刈に悩まされ、大外刈に鍛えられ、そしてこの決勝はその大外刈の存在自体に救われた。まことに幸せで稀有な「技と人」との関係ではないだろうか。宇高の柔道人生の集大成というべき準決勝、決勝はぜひとももう一度見てみたい、今大会前半戦のベストバウトだった。

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古田 英毅
柔道サイト 「eJudo」編集長。国内の主要大会ほぼ全てを直接取材、レポートを執筆する。
コラム「eJudo's EYE」の著者でもある。自身も柔道六段でインターハイ出場歴あり。J SPORTSワールドツアー中継ではデータマンを担当。

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