ドジャースの前田健太は、メジャーリーグ最初の4試合で3勝0敗、防御率0.36。一躍、新人王候補にのし上がった。ところが続く5試合で3敗を喫して、防御率を3.29まで上昇させた。米メディアの中には日本人投手が来る度に起こる「日本人投手は中四日のローテーションに適応するのが難しい」という論争を、今さらのように蒸し起こす者が現れた。

バカバカしい。そんなもの百も承知での“メジャー挑戦”だ。前田が中四日について苦言を呈した事実はないし、彼の口から「硬いマウンド」や「滑るボール」についての言い訳も聞いたことがない。

登板間隔や環境の違い。絶対アウェイの中で投げること。それこそ「メジャー挑戦」である。

だから当然、思いがけない誤算も起こる。5月28日のメッツ戦。前田は初回二死走者なしの場面で、3番コンフォルトの投手ライナーを右手に受けてうずくまった。右手の状態は「触れば痛い」という状態だったが、前田はそのまま五回を投げ切り、今季4勝目を挙げた。

前田はその次の登板(6月3日のブレーブス戦)でも6回と1/3を投げて6安打2失点(自責点1)で3連勝を飾り、ここまでの11試合で5勝3敗、防御率2.84。一時の不調(だったとしたらの話だが)を脱した感がある。

前田は以下の表の通り、ここまで11試合に先発して6試合にクオリティ・スタート(以下QS)している。それは広島とドジャースの先輩で“男気”黒田博樹の1年目に匹敵する数字だ。

ただし、前田自身はQSというメジャーリーグの基準をあまり気にすることなく、マウンドに上がっているようだ。たとえば彼は登板を一日だけ延期した5月1日の午後、シカゴのリグリーフィールドの片隅でこう言っている。

「試合を作るのは大切なことだとは思いますけど、クオリティ・スタートを目指すというよりはチームが勝つことを目指します」

試合を作るとは本来、とても曖昧な表現だ。だからメジャーリーグにはQS=『6回以上3失点以下で充分だ』という基準もあったりするのだが、目指す場所は違っていてもいいだろう。

「まずは1点も獲られないことが大事。試合の内容によっては最終的にゲームを作ることも目指すけど、自分が絶好調なのに6回3失点だと、それは良くない投球だと思う。それは最悪の時の投球。だから、目標はそこではない」

と前田。淡々とQSを積み重ねてメジャー通算79勝を挙げた黒田や、先ごろ日本人5人目のメジャー通算50勝を達成したマリナーズの岩隈もきっと、同じだったのではないかと思う。彼らもそういう気持ちで投げながら、自分にコントロールできない結果を咀嚼する段階でQSという基準に到達することを善しとするようになったのではないか。

ちなみに黒田はメジャー1年目の2008年、13試合目となる6月6日のカブス戦でメジャー初完封(9回4安打無失点)を記録し、6月19日には右肩腱炎で故障者リスト入りするものの、16試合目となった7月7日のブレーブス戦では1安打完封(七回まで完全試合だった)するなどして復活。時には二回や三回で降板する上がり下がりの激しいシーズンを送りながらも、チームのナ・リーグ西地区優勝に貢献し、ポストシーズンでも2勝を挙げている。

長いシーズン、調子がいい時もあれば、良くない時もあって当然だ。大事なのは162試合が終わった時、どういう数字が残っているか。そして、その先の大事な試合への登板をチームから託される実力を証明しているかどうか、だ。

黒田はそうやってメジャー1年目を戦い抜き、その後「メジャー屈指の実力派投手」となる礎を着々と築いた。前田も今のところ、その道のりを歩んでいるのではないかと思う。

photo

ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員

お知らせ

【メジャーリーグ中継2016 】
J SPORTSでは、前田健太投手、田中将大投手先発試合全試合放送
その他、日本人選手出場試合など注目試合を生中継!


※登板予定変更や雨天中止などにより放送形態を変更する場合がございます。

スカパー!×J SPORTS J SPORTS オンラインショップ